はじめに
大学入試などの重要な場面で、視覚障害のある受験生が安心して実力を発揮するためには、「合理的配慮」を受けることがとても大切です。
その第一歩が、「合理的配慮申請書」の提出。
でも…
- 何を書けばいいかわからない
- どこまで希望を書いてよいのか不安
- 通らなかったらどうしよう…
そんな悩みを抱える受験生や保護者の方も多いはず。
この記事では、合理的配慮申請書の書き方、記入例、そして実際に配慮が認められた/認められなかった事例を紹介しながら、安心して準備できるよう丁寧に解説していきます。
合理的配慮申請書とは?
合理的配慮申請書とは、障害のある受験生が他の受験生と同じスタートラインに立つために必要な調整(配慮)を、大学や試験主催者に伝えるための書類です。
たとえば次のような希望を伝える目的で使用されます。
- 試験問題を点字で提供してほしい
- 拡大文字での問題冊子を使いたい
- 試験時間を延長してほしい
- 音声ソフトを使いたい
- 代筆や誘導支援が必要
合理的配慮申請書の記入例
以下に、視覚障害のある受験生の例をもとにした記入例を紹介します。大学受験を想定した形式ですが、他の教育機関でも参考になります。
| 項目 | 記入内容(例) |
| 氏名 | 山田 太郎(やまだ たろう) |
| 出願予定の試験名 | ○○大学 一般選抜(前期日程) |
| 障害の種類・程度 | 視覚障害(身体障害者手帳 1級)視力は両眼ともに光覚のみで、文字の読み取りは不可。移動の際は白杖を使用。 |
| 現在の支援状況 | 高校では全教科で点字教材を使用。試験では1.5倍の時間延長と点字での解答、口述面接時の質問読み上げを受けている。 |
| 希望する配慮内容(具体的に) | ・試験問題の点字版提供・試験時間1.5倍の延長(60分→90分など)・記述式問題の点字解答を認めてほしい・試験会場は静かな個室で、点字機器の持ち込みを許可してほしい |
| 配慮が必要な理由 | 点字が唯一の情報取得手段であり、通常の印刷物は使用不可。点字読解や記述には時間を要するため、時間延長と環境整備が不可欠です。 |
書き方のポイント
①「何に困っているか」と「どうすれば対応できるか」をセットで書く
配慮申請では、単に「困っている」と伝えるだけでなく、「こうすれば解消できる」という方法もあわせて提案すると大学側も検討しやすくなります。
② 現在の支援実績を書くと説得力アップ
学校や予備校で受けている支援を具体的に書くことで、妥当な申請であることが伝わります。
③ 配慮は「有利にするため」ではなく「公平にするため」
合理的配慮は、他の受験生より有利になるための措置ではなく、公平な条件を整えるためのもの。その視点で希望内容を見直しましょう。
④ 医師の診断書・手帳の写しなどを添付
合理的配慮申請には、障害の内容を証明する書類が求められます。事前に準備しておきましょう。
配慮申請の流れ
- 志望校の入試要項を確認(配慮申請の締切・方法・必要書類をチェック)
- 在籍校の先生や支援担当と相談しながら申請書を作成
- 医師の診断書や手帳コピーと一緒に提出
- 大学による審査 → 結果通知
- 場合によっては打ち合わせやリハーサルも実施
合理的配慮の実例集
ここからは、実際に視覚障害のある受験生が申請し、認められた事例/認められなかった事例を紹介します
認められた事例
● 点字問題の提供
- 内容:全盲の受験生が試験問題の点字化を希望
- 対応:試験問題を事前に点訳、点字で出題。回答も点字で提出し、大学側で墨字に翻訳
- ポイント:大学側に点訳体制があり、十分な申請期間(2か月前)があった
● 点字と音声の併用
- 内容:長文問題の確認に時間がかかるため、点字と音声読み上げを併用したい
- 対応:点字版とCD音声データを併用。本人の読みやすい方法で選択できた
- ポイント:複数手段の併用を希望する場合は、理由を具体的に説明すると通りやすい
● 面接時の読み上げ支援と誘導
- 内容:面接室への誘導と、質問の読み上げを希望
- 対応:支援スタッフが会場まで案内。面接官に障害特性が事前に共有され、音声による質問実施
- ポイント:面接の場面でも丁寧な事前連携がカギ
認められなかった事例
● 出願締切間近の点字申請
- 内容:出願の2週間前に点字問題を希望
- 理由:点訳作業と試験問題のセキュリティ管理上、準備期間が足りないと判断され不許可
- 教訓:点字での受験は1〜2か月前には申請必須!
● 試験すべてを口述に変更希望
- 内容:文章問題をすべて口頭で聞いて、口頭で回答したい
- 理由:試験の本質(読解・記述能力の評価)を変えてしまうため不認可。代わりに読み上げと時間延長で調整
- 教訓:「試験の評価基準」を大きく変える要望は、合理的配慮の範囲外とされる
● 自分の私物PCを使いたい
- 内容:自分のノートPC(音声ソフト入り)を使いたい
- 理由:不正防止・情報漏洩の観点から私物PCは禁止。代替として大学準備のPC+音声ソフトを提供
- 教訓:目的(音声読み上げ)が同じであれば、方法に柔軟性を持つことが大切
まとめ|配慮申請は「交渉」ではなく「対話」の始まり

申請内容を話し合う生徒と先生
合理的配慮の申請は、“特別扱い”を求めるためのものではありません。
自分の力を公平に発揮するための「環境を整える」ための大切なプロセスです。
- 書類はていねいに、でも遠慮せずに
- 目的は「公平なスタートライン」に立つこと
- 配慮が叶わない場合も、代替案を前向きに受け止めて調整する
「相談してよかった」「希望を伝えてよかった」と思えるように、ぜひ早めの準備・行動をおすすめします。
「どこまで希望を書いていいの?」「自分のケースでも申請できるの?」
そんな疑問や不安があれば、どうぞお気軽にご連絡ください。


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