この記事でわかること
視覚障害のある先輩が大学進学までに何をしていたか知りたい、視覚障害のある中高生と保護者・教育関係者向けの記事です。大学生2人の実体験から、受験準備・大学との交渉・日常の勉強方法・合理的配慮がわかります。
座談会の開催概要
| イベント名 | 第1回 先輩に聞いてみよう!~大学でなにしてる?~ |
|---|---|
| 開催日 | 2025年10月25日(土)19:00〜20:00 |
| 開催形式 | オンライン(Zoom) |
| テーマ | 視覚障害のある学生の大学進学と大学生活 |
| 参加者 | 視覚障害のある大学生2名 |
登場する先輩の紹介
※学年は座談会当時(2025年10月)のものです。柴田 明日真(しばた あすま)さん/東京情報大学 総合情報学部 3年
山口県下関市出身。先天性の疾患で視覚障害があります。左目はほぼ見えず、右目はぼんやりとした光と高コントラストの輪郭のみ認識できます。普段は点字・音声読み上げ・白杖を使用しています。幼稚園から中学校まで地元の一般校(特別支援学級)に通い、高校は筑波大学附属視覚特別支援学校へ進学しました。現在は情報工学を専攻し、AIや組み込みシステムを研究しています。小型惑星探査ローバ「CanSat」の開発チームにも参加しています。アメリカ・ネバダ州のブラックロック砂漠で行われた国際大会「ARLISS」に出場しました。
小汲 唯奈(おぐみ ゆいな)さん/桜美林大学 リベラルアーツ学群 3年
東京都出身。網膜色素変性症により中途で視力を失いました。現在の視力は手動弁(動くものがかろうじてわかる程度)、視野は1度未満(ストローをのぞくような世界)です。点字・音声ソフト・白杖を使用しています。幼稚園から中学校まで一般校に通い、高校は東京都立文京盲学校へ進学しました。現在は言語教育学を専攻し、日本語教師の資格取得を目指しています。外国にルーツがある子どもへの日本語支援ボランティアも行っています。
大学選びをいつ、どうやって始めたか
2人とも高校1〜2年から動き始めました。その方法はそれぞれ異なります。
柴田さんの場合:興味のある教授に直接連絡し、5〜6件のアポイントメントを取った
大学調べを始めたのは高校2年生の夏でした。学部単位ではなく、興味のある教授を起点に大学を選んでいます。
柴田さん:学部で比べても、自分にはよくわからなかったんです。だから気になった教授に直接「話を聞かせてください」とアポイントメントを取りました。
高2の秋から高3の梅雨までに5〜6件の教授を訪問しました。最終的に東京情報大学に絞り、高3の夏に入試形式と配慮内容を大学と相談しています。受験形式は総合型選抜(いわゆるAO入試)でした。
小汲さんの場合:高1からネット・YouTube・ワークショップで大学を調べた
大学調べを始めたのは高校1年生からでした。「英語」「心理学」「日本語教師」という3つの興味軸でキーワード検索し、各大学のホームページとYouTubeで雰囲気をつかんでいます。高2からはオンラインのバーチャルオープンキャンパスに参加しました。高2の夏に桜美林大学ともう1校に問い合わせました。もう1校からは視覚障害者の受験を受け付けないと回答があったため、桜美林大学に絞っています。その後は大学主催の高校生向けワークショップに毎月参加し、教員・先輩とのつながりを作っています。ホームページだけでは分からない内部事情を直接相談できる関係を築きました。受験形式は総合型選抜で、志望動機・活動報告書(12項目)・課題読書レポートを提出し、面接でも課題本の内容が問われました。
入試の形式と大学との事前調整
受け入れ実績の有無にかかわらず、2人は大学と事前に交渉を重ねました。そのときの姿勢を紹介します。
柴田さん:実績のない大学でも、担当者の姿勢で動きは変わる
東京情報大学には、当時視覚障害者を受け入れた実績がありませんでした。それでも入試広報課の課長が積極的に動き、入試での配慮から入学後の対応まで、複数回のミーティングを実施しています。
柴田さん:会議の参加者の中に「本当に大丈夫ですか」と心配しすぎる方もいました。でも、自分で何とかします、質問させてもらえれば解決します、とはっきり伝えました。
小汲さん:配慮の告知が受験に影響するか不安だったが、全て正直に伝えた
大学のDisability Support(障害サポート課)のスタッフと、高校の進路担当教師を交えました。3者でミーティングを実施しています。
小汲さん:これはできます、これには配慮が必要です、と自分の状態を全部オープンにしました。告知で受験に不利になるんじゃないかという不安もありましたが、入学後に隠した弊害の方が大きいと思ったんです。
自分の状態と必要な配慮を正直に伝えることが、入学後の環境づくりにつながりました。
大学に入ってからの合理的配慮
柴田さん:希望を文書化して提出し、大学から回答文書を受け取った
入学前に配慮希望事項を13〜14項目リスト化して提出し、大学から回答文書を受け取りました。現在も文書に基づいた配慮が継続しています。主な配慮内容は次のとおりです。
- 授業資料はWordまたはテキストファイルで事前送付
- PDFや画像スライドは学生教務課が変換・送付
- 教科書データを出版社に問い合わせ、提供可能なものはデータで受け取る
- 数式の多い教科書は点字ボランティアに点訳を依頼
- 概念図・フロー図は点図(立体コピー)で提供
- 授業の2週間前に資料を学生教務課へ提出するよう、教員へ指示が出ている
- キャンパス内に点字ブロックを設置(入学1年目に整備)
小汲さん:入学後に配慮が1件も反映されていなかった。伝え続けて環境を整えた
入学直前に配慮申請のミーティングを行いましたが、最初の授業で配慮が1件も反映されていませんでした。部署内の引き継ぎが行われていなかったことが原因です。前例があっても、スタッフの姿勢次第で配慮を受けられるかどうかは変わると振り返っています。その後は自分で交渉を重ね、現在の体制を整えました。主な配慮内容は次のとおりです。
- 全授業資料をメールでテキストファイル送付(大学アプリが使用中の音声ソフトPC-Talkerに非対応のため)
- 画像として処理されたPDFは音声読み上げができないため、都度テキスト変換を依頼
- 配慮が通じる教員・通じない教員がいるため、根気よく自分でくり返し伝えている
小汲さん:ちょっとしんどいと思うんですけど、コツコツ伝え続ければ、先生も人間なので分かってくれます。
中高時代の勉強方法
柴田さん:予習を週2〜3日習慣化し、入手できる点字教材を最大限に活用した
中学時代は特別支援学級の担任から予習をするよう指導され、週2〜3日は予習に取り組みました。点字の問題集は最新版の入手が難しかったため、10年前のものでも活用しています。中高の基礎内容は変わらないと割り切りました。サピエ図書館や筑波技術大学の点字・録音図書リソースから点字データを入手しています。
筑波技術大学 障害者支援研究部(視覚障害部門)の詳細はこちら
小汲さん:自作教材とYouTubeで独学した
中学時代は視力が残っていたため、予習をメインに取り組みました。見えづらさに合わせて、あらかじめ予習で該当箇所にマークを付ける工夫をしています。高校(文京盲学校)では点字で勉強しました。英語文法の授業がカリキュラムになかったため、YouTubeの文法解説動画で独学しています。単語帳はページを1枚ずつ写真で撮影し、テキスト抽出してWordに貼り付けて自作しています。現在はChatGPTで写真をテキスト化して活用しています。
小汲さん:学校で学ぶものだけでは、共通テストを受けるには不十分だと感じました。独学にも限界があるので、先生に頼んで放課後に個別に教えてもらいました。
やりたいことはいつ、どうやって見つけたか
進路を決めた時期もきっかけも、2人はそれぞれ違います。
柴田さん:中学3年生のとき、東京に住みたいという気持ちが勉強のスイッチになりました。高校では、大学1年生からエンジニアとして活動している同級生に出会って、かっこいいなと感じて、その道を目指すようになったんです。論理的な理由よりも、具体的な人との出会いがきっかけでした。
小汲さん:小学校で初めて英語に触れて、英語を通じて知らない世界に触れられる楽しさを知ったのが原点です。中高では具体的な職業は決まっていなくて、「語学」「国際交流」「人と関わる仕事」という3つの軸だけ持っていました。大学2年生で留学生への日本語支援ボランティアを経験して、日本語教師という職業に魅力を感じて、目標が決まりました。「視覚障害者にできる仕事は何か」という目線で探さないでほしいです。まず自分が何に興味があるかを考えた上で、その職業をやるためにどんな工夫が必要かを考えてほしいと思います。
晴眼者との関わり方
大学で友人関係をどう築いたか。2人に共通するのは「自分から動く」姿勢でした。
柴田さん:研究室のプロジェクトで仲良くなった仲間とは、帰国後に毎週飲み会に行くほど打ち解けました。話しかけちゃえばこっちのもんです。視覚障害を意識しすぎるより、まず動いた方が輪が広がると感じています。
小汲さん:自分でバリアを張ると、周りも声をかけにくい雰囲気を感じ取ってしまうんです。ニコニコしていれば話しかけてもらいやすい。スタッフへの依頼は事前アポイントが必要ですけど、友達には「ここ困ってるんだけど助けてくれない?」と気軽に声をかけられます。友達の存在が、授業でのサポートや情報収集にもつながっています。
先輩から後輩へのメッセージ
柴田さんから
柴田さん:自分に何が必要かを説明できること、そして「ありがとう」と伝えること。それだけで十分です。誠実に向き合えば、周りはわかってくれます。
小汲さんから
小汲さん:まず自分から積極的に動くことが大事です。盲学校では一般大学への受験を勧めない雰囲気があることもあります。でも、周りの大人の意見に流されて、自分がやりたいことを見失わないでほしい。頼れる人に相談しながら、自分の気持ちを大事にして進路を選んでください。
まとめ:自分の可能性を自分で狭めないために
2人の話から見えてきたのは、3つの共通点です。
- 動き出しは早い方が有利です。大学調べは高1〜高2から始め、オープンキャンパスや教授訪問・ワークショップで直接情報を集めています
- 大学との交渉は正直に、誠実に。必要な配慮をすべて開示することが、入学後の環境づくりにつながります
- やりたいことは、出会いや経験の中から見つかります。高校時点で決まっていなくても焦る必要はありません
視覚障害があることを前提に進路を狭めるのではなく、興味のある分野に向かって動き出してみてください。

