この記事でわかること
視覚障害があっても留学できるのか知りたい、視覚障害のある中高生・大学生と保護者・教育関係者向けの記事です。カナダとコスタリカに留学した先輩2人の実体験から、留学の方法・費用・現地のサポート・困難の乗り越え方がわかります。
座談会の開催概要
| イベント名 | 第3回 先輩に聞いてみよう!~「留学×視覚障害」留学を夢で終わらせないために~ |
|---|---|
| 開催日 | 2026年3月27日(金)19:00〜20:30 |
| 開催形式 | オンライン(Zoom) |
| テーマ | 視覚障害のある学生の海外留学と現地生活 |
| 参加者 | 視覚障害のある大学生・社会人の2名 |
登場する先輩の紹介
山宮 叶子(やまみや かこ)さん/学習院女子大学 国際文化交流学部 2年
山梨県出身。生まれつき全盲で、点字を使用しています。大学では英語を専攻しています。大学の必須カリキュラムの一環として、2025年8月から半年間、カナダ・アルバータ州レスブリッジに留学しました。ホームステイ形式で、メキシコ人のホストファミリーの家に滞在しています。
大下 歩(おおした あゆみ)さん/国際基督教大学(ICU)卒・社会人
神奈川県出身。2歳から全盲で、点字を使用しています。ICUを休学し、2017年に3週間、2018〜2019年に10ヶ月、中米のコスタリカに滞在しました。コスタリカはスペイン語を話す中米の小国で、環境保護の先進国として知られています。現地ではUNDP(国連開発計画)オフィスでのインターンや、エコツーリズムのアクセシビリティについての研究を行いました。現在は視覚障害者向けの職業訓練施設に通いながら、博物館アクセシビリティ推進員として活動しています。
留学のきっかけ:2人の全然違う出発点
大下さん:20歳の記念に一人で海外へ行きたかった
大下さん:きっかけは軽い気持ちでした。大学の友達で一人で海外に行く人が増えていた時期で、かっこいいなと思ったのが始まりです。もともと大学の授業でスペイン語を学んでいたのと、コスタリカが環境保護の先進国でいろんな動植物がいることで知られていたので、コスタリカに行けるプログラムを探しました。プロジェクトアブロードというボランティア派遣団体を見つけて、交渉の末に派遣が決まりました。
山宮さん:留学が必須の大学を選んだことで道が開けた
山宮さん:中学生の頃から英語が好きで、大学では英語を専攻したいと思っていました。高校生のとき、視覚障害のある先輩が留学でサポートを受けにくかったという話を聞いていて、不安だったんです。でも、必須カリキュラムに入っている学科であれば行けるんじゃないかと考えて、留学が必須の学習院女子大学 国際文化交流学部を第一志望にしました。入学後も調整はありましたが、予定どおりカナダに行くことができました。
現地で楽しかったこと
自然との触れ合い、ホストファミリーとの交流。2人が現地で見つけた楽しみを紹介します。
大下さん:野生のナマケモノに手で触れた
大下さん:コスタリカは動植物が豊かで、触れ合う機会が多かったです。1回目の3週間は国立公園の中のゲストハウスに泊まっていて、毎朝5時半にほえざるの鳴き声で目が覚めました。キッチンで大きなバッタが大量に降ってくることもありました。2回目の滞在から10日ほどたったある日、オフィスのそばの木にナマケモノが降りてきたんです。初めて野生のナマケモノに手で触れられて。雨上がりで毛がドロドロでゴワゴワで、野生動物だなと実感しました。
山宮さん:初めてタンデム自転車に乗った
山宮さん:留学3日目に、ホストファーザーから「自転車に乗ってみたいか」と聞かれました。乗ったことがないけど乗ってみたいと答えたら、翌日には知り合いをたどってタンデム自転車を調達してきてくれたんです。カナダの夏は涼しくて乾燥していて、その空気の中を走ったのが今でも素敵な思い出です。それから毎日夕方になると、ホストファーザーとサイクリングをするようになりました。キャンプや多国籍の食事会にも連れて行ってもらって、移民国家カナダならではの文化交流を楽しみました。
現地で直面した困難とその乗り越え方
楽しい経験の一方で、2人はそれぞれの国で困難にも直面しました。移動の壁をどう乗り越えたのか、2人の言葉を紹介します。
大下さん:コスタリカは点字ブロックがほとんどなくて、一人で自由に歩き回るのが難しかったです。最初のうちは障害者自立支援センターのスタッフがシフトを組んで移動を手伝ってくれました。その後はUber(配車アプリ)を多用して移動しました。ビザ延長のような公的な手続きも、なかなか進まなくて。電話で営業中と言われて、3時間かけてバスで行ったら閉まっていたこともありました。でもこれは視覚障害のせいではなくて、現地の人全員がそういう感じでした。
山宮さん:カナダは冬になると雪が降って、地面の感覚が白杖でも足でも分からなくなるんです。何度か道に迷って、バスにも乗り遅れました。あるとき、車道に近づきすぎていたところを、走っていた車の運転手さんが窓を開けて声をかけてくれて。これは助けを求めるチャンスだと思って、バス停の場所を大声で聞いて、声で誘導してもらって乗り切りました。困ったら声を出せばいい、というマインドが半年間で育ちました。
留学の方法と費用
視覚障害のある人が海外に行く主な4つの方法
留学や海外経験の方法はいくつかあります。自分の状況や目的に合わせて選んでみてください。
- 大学の必須カリキュラムとして留学する(山宮さんの方法):サポート体制が大学側に組み込まれており、配慮の交渉がしやすい方法です。入学前から、留学が必須の学科を調べておくことが重要です
- ボランティア派遣団体を通じて個人で留学先を探す(大下さんの1回目の方法):プロジェクトアブロードなどの団体を通じて、自分の興味に合ったプログラムを選べます。交渉次第でサポートを得られることもあります
- 奨学金を活用して長期滞在する(大下さんの2回目の方法):ダスキン障害者リーダー育成海外研修派遣事業(公益財団法人ダスキン愛の輪基金)など、障害のある人の海外活動を支援する奨学金があります。18歳以上から応募できる制度もあります
- NPO主催のスタディツアーに参加する(山宮さんが複数回経験):国際系NPOが主催する短期の海外プログラムです。サポートを受けながら海外経験を積めるため、一人ですべてを準備するのが難しい場合に有効です
費用の目安
2人が話した当時の金額です。現在の条件・物価とは異なる場合があるため、参考値として確認してください。
- 大下さん1回目(3週間・コスタリカ・ボランティア派遣):飛行機代・保険・専属スタッフ費用を含め約60万円
- 大下さん2回目(10ヶ月・コスタリカ):ダスキン障害者リーダー育成海外研修派遣事業の奨学金を活用。生活費として月約17万円、年間最大400万円が支給される制度でした(※当時の金額。現在の条件は公益財団法人ダスキン愛の輪基金の公式サイトで確認してください)
- 山宮さん(半年・カナダ・大学カリキュラム):学費・ホームステイ・航空券など込みで約200万円。日本の大学の半期分の学費は免除され、日本学生支援機構の奨学金を補助に充てました
奨学金を賢く探すことが、留学を実現する大きな鍵になります。視覚障害のある人向けの奨学金も複数あるため、早めに情報を収集しておきましょう。
現地でのサポート体制
大下さん:現地に着いてからの「人のつながり」が動かしてくれた
日本から問い合わせている段階では、物事はなかなか動かなかったといいます。
大下さん:現地に行ってしまうと、人から人へつながって、意外と簡単に事が動くんです。語学学校の紹介も、引っ越し先の情報も、健康診断の手配も、現地スタッフの知人や友人を通じてスムーズに進みました。
山宮さん:大学経由で事前に配慮を整備し、キャンパス内は2つの窓口に相談できた
大学経由の留学だったため、カナダの大学側から事前に配慮のヒアリングがありました。授業資料はWordやPowerPointのファイルで事前に受け取り、スクリーンリーダーで読みました。教科書はカナダの点訳団体に依頼して点訳しています。費用はかかりましたが、手で読めるので役立ったと振り返っています。小説の課題はAudible(音声版)を購入しました。試験は時間延長とパソコン回答が認められました。キャンパス内では留学生サポートセンターと障害者サポートスタッフの両方に相談でき、2つの窓口が連携していたといいます。
バス停までの約500メートルの道は、ホストファーザーに2〜3回付き添ってもらってルートを覚えました。その後はGoogle Mapsを使いながら一人で通学しています。冬の雪道で外出が難しくなったときは、大学の補助で送迎サービスを利用できました。
留学前に準備しておくとよいこと
2人の経験から、以下の準備が特に役立つことがわかりました。
- 英語の診断書を用意し、常時携行する:視覚障害の原因となっている疾患について、英語の診断書を事前に取得して持ち歩いておく
- 症状を現地の言語で説明できるよう準備する:体調が悪くなってから説明するのは難しいため、症状や必要な支援を現地語で伝える言葉を事前に用意しておく
- 海外旅行保険は必ず加入する:現地の医療費は高額になることが多いため、保険の内容と使い方を出発前に確認しておく
- 現地在住の日本人コミュニティに事前に連絡を取る:かかりやすい病院や現地の生活情報を事前に把握しておくと安心できる
英語点字の勉強法
英語を点字で読む力は、留学前から身につけておくと役立ちます。2人が実践した勉強法を紹介します。
大下さん:自分が日本語で読んで大好きだった本の英語版を読むのが、楽しみながら慣れる方法として効果的でした。ハリーポッターを英語で読んで、この単語はこういう言い方をするんだと発見しながら読んでいるうちに、英語点字に慣れていきました。
山宮さん:本を読むのが好きだったので、英語の問題集の長文を、答えを出さなくてもいいのでとにかく量をこなして読みました。不思議なことに、英語で読んだ方が社会などの科目も頭に入ると中学生の頃に気づいたんです。それから、英語で書かれた資料を先生にたくさん用意してもらって読んでいました。
帰国後に感じた変化
留学の経験は、帰国後の2人の考え方にも変化をもたらしました。
大下さん:コスタリカの友達から繰り返し言われた言葉が「Vamos a preguntar(聞いてみよう)」でした。困っていることや分からないことを自分の中でぐるぐる考えるより、外に出してみると、助けが来たり、そもそも問題じゃなかったりするんです。表に出しておくと意外といいことがある、という価値観は帰国後も持ち続けています。
山宮さん:帰国してから、「考えがしっかりした」「明るくなった」と周りから言われることが増えました。雪の中の移動のように乗り越えた経験が自信になって、初めての場所に一人で行く不安がかなり減りました。ホストマザーに「困っていることを言ってくれないと、こちらも分からない」と言われたことも印象に残っています。
まとめ:「聞いてみよう」の一歩が世界を広げる
2人の体験談から見えてきたのは、3つの共通点です。
- 行かない選択は簡単ですが、行けば必ず何かが変わります。リスクの情報はいくらでも集まりますが、現地に行った人しか知れない経験があります
- 困ったことを外に出すと、人が動いてくれます。「聞いてみよう」「困っています」を声に出すことが、留学中の最大の武器になったと2人は話しています
- 留学の方法は一つではありません。大学カリキュラム・ボランティア派遣・奨学金・スタディツアーなど、自分に合った方法を探すことから始めてみてください
「ちょっとでも興味があるなら、検索欄に打ち込むだけでもいい。その一歩が自分が変わるきっかけになる」と山宮さんは話しています。視覚障害があることを理由に留学をあきらめる前に、まずどんな方法があるかを調べてみてください。

